海外の大学への進学について(5) ―帰国生大学入試についてvol. 376―

(2023年12月9日 15:00)

こんにちは。SOLの余語です。
前回は、英語でコミュニケーションが取れることが就職活動において有利な材料になることが日本社会で広く共有されたことによって、そのための取り組みを様々な形でしている人が増えたこと、AI技術の発展で自動翻訳技術の精度が上がっていることなどから、今後日本の企業においても英語運用能力を「専門性」と扱う際のハードルが上がるのではないかという話をしました。このようなことを踏まえると、「英語ができればよいところに就職できると聞いているので、海外の大学に進学しても問題はない」と考えている人は進路選択を慎重に検討し直すことが必要になると言えるかもしれません。

さて、現在、海外の大学への出願を視野に入れている人の中には、「英語圏の国や地域の大学を卒業しておけば、日本だけでなく海外の企業でも働くチャンスが得られる」と思っている人もいると思います。この点、最近、日本においてここまでの記事でふれてきたような人々の働き方やその背景にある社会構造に関わる変化を受けて、少なくとも経済的な面で同じような問題に日本よりも先に直面してきた先進各国の状況を参考にしたいという人が増えてきたためか、アメリカやヨーロッパの雇用制度に関する本が出版されたり、インターネット上で記事が公表されたりしています。例えば、歴史社会学者の小熊英二氏の『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』もその一つです。

この本の中で、小熊氏は、アメリカやヨーロッパの労働市場は、大学院などで専門性の高い教育を受けた人を対象とした上級職員(英語で言うとexecutiveです)として採用された人、2つ前の記事でふれた「ジョブ型雇用」で就職した人、収入が低く期間も安定してない形で雇用された人の3つの階層で主に構成されていると述べており、先の2つの階層に入るには大学や大学院などで専門的な知識や考え方、技能などを身に付けることが通常求められるとしています。欧米の先進国における人々の働き方に関するこのような方向性での分析は他の本や記事でも概ね共通したものであり、SOLのOBOGで外資系企業に就職した人からも同じような趣旨の話を聞くことがあります。

アメリカやヨーロッパの先進国で就職をしようという場合、一般的に日本社会で想定されている経済的に安定した生活を送ることを希望しているのであれば、社会や企業の状況によっていつでも打ち切られるような雇用契約の下で労働するのは避けた方がいいでしょう。それを踏まえると、「英語圏の国や地域の大学に行けばキャリア上の選択肢が広がる」と楽観的に考えるのは禁物で、どのような言語が主に使用されている学習環境に身を置くことが専門的な知識や考え方、技能などを身に付けるのに最も有効かという点に真剣に向き合うべきだと思います。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html

トップへ戻る