こんにちは。SOLの余語です。
8月3日の記事では、TOEFL iBTやIELTSのReading対策などを行っている時に、「主語(subject)」のような文法学習の基本的な用語の意味を説明しなくても理解できる人がいる一方で、例文を示しながらそれがどのような働きを示しているかを細かく確認してもなかなか理解が深まらない人もいると述べました。このような現象には、僕らが指導している人の多くにとって母語である日本語で様々な学習にどのような形で取り組んできたかが関係しているようです。
一般的に、人間が何かを学ぶ過程は、見たり触ったりできるといったように自分の身の回りにある具体性があるものがまず観察の対象となり、そこから徐々に対象の範囲が広がっていくという形を取ります。そして、自分が生きていくために必要なものを手に入れようとすることに合わせて、今いる環境では経験できない物事を視野に入れたり、自分が直面している状況を様々な面から理解したりしようとする方向で知的な好奇心が発展してきた段階で、言葉や数字といった具体的な文脈から離れたものを導入していくことになります。
数字はそれが意味するもの以上のものを表すということはありませんが、例えばある果物を説明する時に、「赤くて甘いもの」、「りんご」、「果実」、「種子植物の花の受精後の様態」といったような言葉を用いることができることから分かるように、言葉がカヴァーする範囲が広がっていくにしたがって抽象度も増していくのが通常です。これを文法の学習というトピックに合わせた形で言うと、構造を分析したい文や用いられ方を理解したい単語の種類や数が増えれば増えるほど、「名詞」や「動詞」、「主語」、「述語」といった(文法を解説した本を除いて)実際に目にする文の中にはほとんど出て来ることのない用語の意味を理解することが必要になってくるのです。
抽象的な意味を持つ言葉にコミュニケーションの中でふれたり、自分で用いたりする時に、人間は、意識的に行うかどうかは別として、それを具体的な人物やもの、現象などに結び付ける形で処理していきますが、その方法を習得し無意識に行える状態に到達することが小学校や中学校、高校、大学などの教育機関における学習目標の一つとなります。その対象となるものは様々で、関連性の強さを基準に「科目」というカテゴリーで分類されていますが、抽象度の高いものほど適用できる範囲が広いために、それなりに使いこなせるようになるには時間が必要ですし、強い負荷が学習者にかかる可能性があります。
そして、このような学習プロセスに伴う問題をできるだけ回避するには、そこで用いる言語を学習者の母語とするのが合理的であるように思われます。なぜなら、母語は多くの人にとって、生まれた時から多くの時間やエネルギーをかけて学習すること(この期間の大半は幼児期となるので、記憶に残っている人はほとんどいないと思いますが)により、文を作る際の基本的なルールや一定の数の言葉の意味、用法が意識しなくても使える水準まで定着し、他の言語に比べて容易に運用能力を上げることができるからです。そして、英文法の学習は母語を使って学習するべき条件を備えたものであり、さらに理解するのが難しい項目を習得するにはそれに見合った水準まで母語の運用能力も上げるべきと考えられます。
これが、前回の記事で見たような生徒の間での学力の差と母語である日本語での学習経験のあり方の間のつながりの背景にあるメカニズムなのではないかというのが今のところの僕の仮説であり、もしこれが正しいのであれば、英文法に対する理解を深めたい際には、まず一定の段階まで日本語の学習を行うべきだと思います。
それでは、TOEFL iBTやIELTS、TOEICなどの英語運用能力試験の対策についてご質問などがある場合には、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。
【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html
TOEFL iBTやIELTSを受験するための学習の進め方について(25) ―英語学習の勧めvol. 194―
(2022年8月24日 19:15)