受験する大学や学部・学科の選び方について(2021年版)(8)―帰国生大学入試についてvol. 297―

(2021年5月7日 17:30)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、首都圏の有名大学が次々と設置している英語を主な使用言語とする9月入学プログラムに関して、優秀な大学教員を獲得するための国際競争が激化する中で学生の知的な成長を促すような体制を長期の不況といった問題に直面する日本の大学が作り出すことができるのかという点について疑問を呈しました。実際に授業を受けた人からも良い評判を聞くことがあまりありませんので、このプログラムを受験することについて慎重に検討すべきだと思います。

さて、個別面談を行った際などに保護者の方から「自分の子供に英語で専門的な学びをしてもらいたいが、どのような手順を踏むべきか」という質問を受けることがあります。教育相談の対象となっている人の英語運用能力が十分に伸びていなかったり、これまでに述べたような英語圏の大学で日本語を母語とする人が学ぶことに伴う負担や悪影響を克服できるくらい強いモチベーションを持っていなかったりする場合、僕は「まずは日本の大学で一定程度の専門的な知識や考え方を習得した後に英語圏の大学もしくは大学院に留学することが最も無理がないし期待した成果が出やすいはずです」と答えています。

このように答える理由は、多くの日本人にとって学術的な議論やそこで使われる様々な概念の内容を(少なくとも外国語である英語よりは)しっかりと受け止めることができる言語である日本語を用いてある学問についての理解を深めておくことによって、同じトピックを取り上げる授業を英語で受けた際の負担が軽減され、より多くのものを吸収できる状況を作り出しやすいということがあります。

例えば、日本語で経済学に関する授業を体系的に履修することを通じて、この学問で扱われるテーマや「ベネフィットとコストを客観的に比較した結果に基づいて合理的に行動する人間像を前提に様々な現象の因果関係を考える」といった分析のあり方などに関する全体像を比較的容易に把握できるはずです。このようなものが定着していれば、英語圏の大学の授業内で教員の話をうまく聞き取れなかったことがあったとしても自分の知識を用いて埋め合わせをすることができるので、内容の理解が損なわれることはありません。

レポートのような課題が出された際も、読書などによる情報収集にそれほど多くの時間やエネルギーを費やす必要はなく、内容を練り上げたりそれを適切な英語でどのように表現すればよいのかについて検討したりといったプロセスに集中することも可能になります。また、2つ前の記事で述べた通り、日本語を母語とする人が英語で学問的な議論をする時に「受け身」な姿勢になりやすいですが、ある学説の内容やそれに対する批判がどのようなものか分かっていれば、相手からの反応をある程度予測することが可能になりますので、積極的に議論に参加ができますし、それによって英語運用能力が効率的に高まることも期待できます。

30年近く前の話になりますが、日本の文部省(現在の文部科学省)が日本人がどのように英語の学習を取り組むことが有効なのかという点に関する調査を実施したところ、少なくとも習得した語彙量が最も多かったのが、「日本の大学を卒業した後に英語圏の大学もしくは大学院に行った人」だったそうです。このようなことを考えると、特に「グローバル人材」を多く輩出したいと考えている日本の大学はそのカリキュラムの改革に関する非現実的な考えを捨て、まずは日本語で実施する授業の充実を優先すべきですし、英語圏の大学や日本の大学の9月入学プログラムを志望している人も1歩立ち止まって、そこに進学することが本当に自分が望むものを習得することにつながるのかを考えてみた方がいいでしょう。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
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