こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、受験する大学や学部・学科を決める際に、「社会科学系の学部・学科で学んだ方が将来の就職活動で有利な立場に立てる」という現代の日本社会で広く受け入れられている考えに縛られることなく、「大学で何を学びたいのか」をしっかりと検討すべきということを述べました。自分の学問的関心を自由に検討する機会が与えられないことによって、大学受験が「自分自身の問題」ではなくなり、受験準備の様々な過程に支障を来すケースが多く見られるということがその理由です。
この点については、「企業が就職活動の際に大学で学んだ専門分野によって学生の扱い方を変える」という考えが実態に合っているのかということも検証すべきだと思います。と言うのも、少なくとも僕が大学や大学院に行っていた20年くらい前は、日本の企業は大学や大学院で身につけることのできる専門的な知識よりは協調性やコミュニケーション能力を重視する形で新卒生の採用活動を行っていると言われており、実際にエントリーシートの中で自分が何らかの分野での専門性を高めてきたことをアピールした人が他の学生よりも有利な形で就職活動を進めているという話を聞いたことがなかったからです(学問的な研究活動の経験がある大学院生に対する企業からの求人が少ないと嘆いていた人がいた覚えもあります)。
そのころとは社会の状況が大きく変わっているという声もあるでしょうが、2017年から18年にかけて日本の多くの大企業が加入する経団連(日本経済団体連合会)が会員企業256社、非会員企業184社を対象に「高等教育に関するアンケート」を実施し、その結果を2018年4月に公表しています(詳細はこちらを見てください)。そこには「産業界が学生に期待する資質、能力、知識」という質問があり、企業が採用活動を行う中で重要と考える学生の能力や資質を5つ挙げ、回答されたものの中で最も重要だとされたものには5点、その次のものには4点、3番目に挙げられたものには3点というように一つ一つの選択に優先度に合わせて1~5点が割り当てられるという形で回答に関する結果が集計されています。
この調査の「文系学生」に関する結果を見ると、「主体性」や「実行力」、「課題設定・解決能力」の3項目がそれぞれ1351点、924点、754点を獲得し最も評価される能力や資質とされ、日本の企業が以前から求めていたとされる「チームワーク・協調性」や「社会性」がそれに続いています。一方で、「専攻分野の基礎的知識」や「専攻分野の専門的知識」は全体で20項目あるうちの16位、17位となっており(前者が99点、後者が90点という評価を得ています)、この結果だけ見ると僕が就職活動する年齢層だった時と同様に多くの大企業が「大学でどのような専門性を獲得したか」ということにはあまり大きな意味を見出していないと言っても過言ではないように思われます(なお、グローバル化が進む現代社会において最も身につけておくべき能力と一般的に言われている「外国語能力」は153点で13番目、「異文化理解力」は180点で11番目という意外なほど低い位置を占めています)。
もちろん、このアンケートの対象には「即戦力を求めている」と言われる外資系企業は入っていない、どのような業種の企業がどのような回答をしたかわからないといった問題点がありますし、この結果が日本の企業が時代の変化に合わせて自己改革を行えていないということを示しているという評価もあるはずです。ただし、このような調査結果を見ると、受験する大学や学部・学科を決める段階で将来の就職活動をそれほど意識する必要はないのではないかと言うことはできるかと思います。
それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。
【教育相談フォーム】
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受験する大学や学部・学科の選び方について(5) ―帰国生大学入試についてvol. 250―
(2020年5月27日 14:30)