こんにちは。SOLの余語です。
「帰国生大学入試についてvol. 237」では、インターネットの発展が子どもの知的な関心に及ぼす影響について、自分がすでに関心を抱いていることの社会的な価値や考え方の正当性について確信を持たせてしまうことに着目しました。インターネットが普及してから、大人でも自分の考えや感情に合った主張を盲目的に採用してしまうという事例が少なからず見られるという指摘がなされるようになったことを考えると、子どもの知的な関心に与える影響を軽視すべきではないと思います。
さて、インターネットの持つ様々な特質の中で、もう一つ注目すべきことは「ある情報が必要になった時にインターネットで調べれば十分なものを得ることができる」という信憑が広く共有されていることだと考えます。確かに、インターネットはそれが普及する以前には考えられなかった、誰でもアクセスすることが可能であり、かつ膨大な情報量を持つデータベースを提供してくれます。しかし、前回の記事でも述べた通り、インターネットから情報を引き出すには適切な検索条件を設定することが必要で、学問的なトピックや社会問題に関して検索をかける場合には、事前に専門用語やコンセプト、検索対象となるトピックに関連する多様な考えなどについて理解を深めておくことが必要です。また、レストランや小売店の評判を調べる時ならともかく、学問的な事柄に関係する情報が「必要だ」と感じられるようになるには、相応の知識や思考の蓄積がなくてはなりません。このような点で、上で取り上げたようなインターネットの捉え方が与える「即時性」のイメージは、こと学問的なものに関する限り、一部の人にしか通用しないものだと考えられます(このような意味で、「信憑」という表現を用いました)。
そして、一部の人に有効性が限定された、このようなインターネットのイメージは、子どもの知的な関心を引き出すことについても大きな影響を及ぼします。人間が自分なりの世界観を築くことを望むのは精神的・肉体的な安定性を手に入れるためだと考えられますが、大人に比べて弱い立場にあり、人生経験も少ない子どもの安定性への志向は意外に強いものであり、心理的な安定を約束されない場合には、ある時点での自分の知識や経験によって形成された(不十分な)世界観などに固執することが多く見られます(新しい物事にチャレンジするのを躊躇する子どもの姿はその表れの一つです)。このため、自分の日常生活とは関係性があまりないように思える問題についての知的な関心を引き出すためには周りの大人などのサポートが必要です。しかし、インターネットから情報を得る際の「即時性」というイメージが社会的に受け入れられていると、知的な関心を持ってもらうための周りの働きかけに対して、子どもが「何事も本当に必要になった時にインターネットで調べればいいので、今は考えなくてもいいじゃないか」という反応を示した場合、それに有効な反論をすることは難しくなります。このような抗弁が機能してしまうことは、子どもの知的な関心を彼らがそれまでに調べたり考えたりするように促していくことの妨げになる可能性があるのです。
ここまで述べてきたように、インターネットにはこれまでに考えられなかった恩恵を世界に与えた一方で、様々な問題点が指摘されており、その中には子どもの知的な関心の発展と関係性が深いと考えられるものがあります。我々のインターネットへのアクセスの容易さを飛躍的に向上させた一人であるスティーブ・ジョブスは自分の子どもにiPadやiPhoneを与えなかったそうですし、その他のインターネット企業の経営者でも、子どものインターネットへのアクセスを制限する人は少なくないそうです。このようなことを踏まえても、子どものインターネットや情報機器の使用には十分に注意を払うべきだと思います。
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2015年度帰国生大学受験セミナーの現場から見えたことvol. 10 ―帰国生大学入試についてvol. 238―
(2016年6月30日 16:10)