北半球の高校生の受験準備に関してvol.9 ―帰国生大学入試についてvol.151―

(2013年1月29日 15:25)

こんにちは。SOLの余語です。
前回は、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験を考えている人が英語環境にいる間に取り組める学習課題の中で、受験生活を充実するのに直接的な関連性を持つものとしてTOEFL iBT対策の学習を挙げました。これには、入試における英語試験に対応できる英語運用能力を習得するという意味がありますし、また英語試験の代わりにTOEFL iBTのスコアが用いられる場合にはそこでの合格可能性を上げることにもつながるということもあります。帰国生入試やAO入試の筆記試験は小論文試験と英語試験で構成される場合が多いことを考えると、事前に英語運用能力を伸ばしておくことが重要な準備の一つであることには疑問を差し挟む余地がないと思われます。


さて、この点に関して、アメリカの教育制度における大学入学資格取得のための統一試験であるSATの受験に向けた学習が英語運用能力の伸長につながるため、他の教育制度で学んでいる人であってもこのような取り組みをすることが必要であるという情報をインターネットなどで見かけることがあります。確かに、アメリカの大学で学ぶことが可能であるほどの英語運用能力を身に付けていれば、日本の大学の入試で出題される英語試験の問題に難しさを感じなくなるというのは感覚的に理解しやすい話ではありますし、実際にTOEFL iBTで100点以上の高いスコアを取得している人にとってはSAT対策が更に英語運用能力を上げていくために有用であることに間違いはありません。


しかし、海外生活の中で順調に英語での読解や論述のための能力を上げることができなかった場合には、TOEFL iBTではなくSATの対策を優先させることが英語運用能力の向上という目標の達成を妨げてしまう可能性が高いということに注意を払う必要があります。帰国生や海外生の中には、TOEFL iBTのスコアが80点以下で伸び悩んでいるというケースが海外での滞在期間に関係なく多く見られますが、その主な要因は基礎的な文法事項に対する理解の欠如や語彙力の不足です(海外での滞在期間が短い場合には、これに英語を実際に使う経験の蓄積が不十分であることも考えられます)。このような人が英語運用能力を伸ばすためには、自分の母語ではない言語である英語がどのような原則や要素に基づいて成り立っているのかということを学んだり落ち着いて考察したりする機会を確保することが必要になります。


SATは上にも書いた通り、英語圏の主要な国の一つであるアメリカの高校生の学力が大学で学ぶ際に求められる水準に達しているかを判定する試験です。つまり、その主眼は英語圏の学生の学力を測ることにあるということで、このテストを実施する際の趣旨を反映した結果、読解問題で出題される文章は抽象的な内容のもので、一つ一つの文の構造も複雑であるということが多くあります。また、そこで使われる単語に関しても、高校生の段階ではその意味を日本語で説明されても十分に理解するのに時間がかかるというものや、英語圏においても使用される頻度が極端に低いものが少なくありません(それはSAT対策を目的とした単語集がアメリカでも広く流通していることも分かります)。


自分の母語ではない言語を学習する際に、その言語の基本的な成り立ちを理解することを目的にするのであれば、そこで例文として用いられるものは内容や語彙が容易に理解できるもので、構造も習得目標とされているもの文法事項さえ習得していれば把握が可能なものが選択されることが外国語学習のためのテキストでは共通して見られる特徴です(少なくとも、英語に関して言えば、日本で発行されたもの特有の話ではなく、英語圏で作成された教材でも一般的に見られます)。これは、文の内容に気を取られることなく、文法事項の理解に注力できるような状況を整えるべきということが外国語の基礎に関する学習には求められるということが広く共有されていることを示していると僕は考えていますが、このような認識が正しいとすれば、SAT対策が全ての英語学習者にとって有益なこととは言えないというのが自然な帰結ということになるのだと思います。


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