私立大の小論文入試での出題内容と、それに対する準備について ―メールマガジン2010年5月15日配信分―

(2013年11月28日 18:00)

こんにちは。SOLの前島です。
SOLは現在、塗装、備品準備など、教室環境の整備の真っ最中です。3月の改装工事後、すぐに南半球現地校の受験生のための2週間の一時帰国用授業に入ったため、開校当初は小教室の部分的な整備のみで終了しました。そのため今回は共有スペースと大教室を中心にやっています。具体的には、床・机等の塗装(柿渋を塗っています)や棚の設置(余った床材を使って書棚等を作っています)や机の組み立て(購入した板に脚をつけています)を、大学生その他いろんな人の力を借りつつ自分たちで行っています。どんな教室を作ろうとしているかについては、近いうちにブログの方で語りたいと思います。


さて、今回は私立大の小論文入試について述べます。2010年度入試の出題を学部系統別に示していき、その後簡単にコメントします。なお、現在の入試問題は、小論文問題というより、日本語読解・論述問題という方が適切である出題が多く、そうした出題については以下に示すことが出来ません(たとえば上智大経営学科など)。これについては、学部学科の専門性にとらわれずに幅広く論説を読む必要がありますが、実は以下に示すような小論文問題でもそれは同様に必要です。入試問題を示したあとでその説明をします。


<複数学部での共通の出題>
○早稲田大学文学部・文化構想学部・法学部・商学部/帰国生共通試験
左の文章(問題は縦書き:声と文字と電子メディアは単線的に変遷するものでなく、同時代に共存し得るものであり、声の文化と文字の文化は相互に連動して、「言葉の型」に留まらず「思考の型」にも影響する、と論じる文章)は、現代のメディア状況と、メディア研究のあり方について述べたものである。この文章を読み、次の2つの設問に答えなさい。
問1 筆者の指摘する「もう1つの問題」とは何か。また、その問題に注意することで、どのような研究の視点が得られると筆者は述べているか。400字以内で説明しなさい。
問2 筆者は、声の文化と文字の文化の連動を考えるメディア現象として携帯電話を例にあげているが、それ以外の例をあげて、あなたなりの考えを400字以内で述べなさい。


○ICU教養学部(1学部ですが、人文科学系も社会科学系も網羅しているということで)
脳死による臓器移植についての短い記事を読み、次の問に答える。
問1 臓器移植の是非について、以下の問に答えなさい。
(1)移植を待つ人の立場での是非
(2)自分が大切にしている人の臓器移植についての是非
(3)総合的に考えての是非
問2 「脳死を人の死とする」ことの是非
(1)自分が脳死判定された場合の「脳死=死」についての是非
(2)身近な人が脳死判定された場合の是非
(3)総合的に考えての是非
問3 臓器提供に関する意思表示の問題について、あなたの意見を論じなさい。


○立教大文学部・法学部・経営学部
「世界市民」について、以下の文章(近代の世界市民主義の原点であるカントの理論には、人間が自然法に基づいて地球の表面を共有する権利があるとする一方で、人間が所属する共同体や社会に一定の地位を与えていたことを指摘するもの)を参考にしながら、あなた自身の考えを1,000字前後で記しなさい。(この設問は、あなた自身の論理的思考力、文章表現力などをみるものです。本文中の筆者の意見に対して、必ずしも賛成か反対かを問うものではありません。)


<人文科学系学部の出題>
○上智大学総合人間科学部心理学科
古典主義についての文章、および嗅覚についての文章の読解・論述問題


○上智大学総合人間科学部社会福祉学科
1.ホームレスなどの社会的排除はなくなると思うか。
2.障害者の差別がなくなるためにはどのような仕組みを作るべきか。
 

○聖心女子大学文学部
あなたの関心のある問題をひとつ取り上げ、その解決や改善に関して特に必要とされるコミュニケーション能力とは何かについて、700~800字で論じなさい。
 

○中央大学文学部人文社会学科社会情報学専攻
1.社会情報学専攻を志望した理由を、簡潔に述べなさい。
2.「社会の情報化」についてあなたの海外生活経験を含めて論じなさい。


○学習院女子大学国際文化交流学部
コンビニエンスストアの存在が社会に与えるメリットとデメリットについて述べなさい。


○成蹊大学文学部(AO入試)
「後悔」とは人間の根源的な精神活動であると主張する文章の要約問題と筆者の主張に対する自分の考えを述べる問題


<社会科学部系学部-経済学部・経営学部・商学部の出題>
○青山学院大学経済学部経学科現代経済デザイン専攻
以下の設問から一問を選び、550字以上650字以内で述べなさい。
(1)海外で生活していたとき抱いていた日本のイメージのうち、実際に日本で生活して最も異なっていた点はどんな点でしょうか。具体的な例をあげながら説明しなさい。
(2)日本語の文章表現のうち、自らが生活していた海外の国の言語の文章表現と最も異なっていた点はどんな点だったでしょうか。具体例をあげながら論じなさい。
(3)日本で生活を始めた当初最も戸惑った点はどんな点でしょうか。その理由として考えられることも含めて説明しなさい。


○中央大学商学部
以下の文章(日本人の思想の特色は、相手に対し正直であり潔白であることを理想とし、相手との一体化、相手への絶対的な信頼を重んじる点にあるが、それには経験が本質的に持っている独立性が忘れられる危険もある、と論じるもの)を読み、筆者が述べていることに対して、あなた自身の意見を600字以内にまとめなさい。
 

○東洋大学経済学部国際経済学科
最近、日本ではフリーター、パートタイマー、派遣社員といった形態の職に25歳前後の若者がつく比率が上昇している。これに関するあなたが滞在していた国の状況を紹介し、自分の将来を踏まえたうえで、この問題について論じなさい。
 

<社会科学部系学部-法学部系の出題>
○上智大学法学部国際関係法学科
以下の文章(夏目漱石の「現代日本の開化」を引用しつつ、19世紀の日本の開国・西洋化がはらんでいた問題に言及したもの)を踏まえ、先進国の功罪について思うところを述べなさい。


○上智大学法学部地球環境法学科
国内で活発な事業活動を行う企業が環境に対し果たすべき責任について、以下の単語のうち3つ以上を用いつつ、具体例を使って述べなさい。
(与えられた単語は、CSR、グリーン調達、環境負荷、環境報告書など)


○明治大学法学部法学科
今日、国際化という言葉をよく耳にするが、それは何か。また、国際化を進める意義についてどう考えるか。


○青山学院大学法学部
あなたの妹さん(5歳)が脳死状態になったとします。そのときに、あなたは妹さんから心臓などの臓器を摘出して他の子供に提供することに賛成しますか、それとも、それに反対しますか。その賛成あるいは反対を踏まえて、仮に、あなたの家族の中に、あなたとは反対の意見の人がいたとします。上述のいろいろな意見(臓器移植法の改正についての様々な意見を会話形式で示したもの)を参考にしながら、あなたは、どのように説明して、その家族を説得しますか。1,200字以内で論述してください。
  ※出題の日本語におかしな点がありますが、実際の入試問題の通りです。


<社会科学部系学部-その他の学部学科の出題>
○青山学院大学国際政治経済学部
人類は昔から戦争や軍備のない平和な世界を望んできました。しかし、戦争も軍備もなくなっていません。現在、米国とロシアの大統領は最近「核兵器のない世界」というスローガンを掲げて核軍縮の交渉を続けていますが、この軍縮交渉は難航しています。次の2つの質問に対して、自分の意見を述べなさい。
1. 人類は、なぜ戦争や軍備をなくすことが出来なかったのだと思いますか。
2. 「核兵器のない世界」は実現可能だと思いますか。また、最大の核保有国である 米国やロシアがこのようなスローガンを掲げたのは、なぜだと思いますか。
※出題の日本語におかしな点がありますが、実際の入試問題の通りです。


○武蔵大学社会学部
添付の新聞記事(携帯電話向け音楽配信サービスが普及し、シングル曲の流通手段として配信がCDと肩を並べる存在になったことを報じ、ヒット曲の定義が困難になったことを論じるもの)を読み、以下の問いに答えなさい。
問1 記事は、旧来のポピュラー文化の流通や制度がデジタル化によって変動していることについて、ヒット曲の指標という側面から論じています。本文を300字以内に要約しなさい。
問2 文中で音楽ジャーナリストの津田大介は、流通や制度だけでなく、文化の中身の変化について触れています。津田の議論を受けてあなたの考えを述べなさい。


○津田塾大学学芸学部国際関係学科
1.以下の文章(保護責任と介入についてのもの)を読み、あなたの考えを述べなさい。
2.以下の文章(自由と集団意識についてのもの)を読み、あなたの考えを述べなさい。


以上が問題ですが、志望学部学科を絞っても、いろんな領域の問題が出されていることに気づいてもらえると思います。これは、大学の学部学科の違いは、扱う対象が違うというよりは、扱い方が違うことを反映しています。どの学問も社会や人間や宇宙を理解することを目標としているのであり、その目標に到達する方法に違いがあるに過ぎません。たとえば経済学を学べば、教育について考える際も、費用対効果という視点から現在の学校教育の意義・効果の高い教育などについて考えたり、費用負担の仕組みから教育のあり方の決定権を見たりするわけです。また、史学を学べば、どういう歴史的経緯から現在の教育の状況が生じたのかを考えるようになります。
入試の小論文問題でも同様に、経済学部でも教育についての問題が出たり、法学部でも企業経営についての問題が出たりするわけですが、そこではその学部学科なりの視点でその問題が捉えられればよいわけです。そして、その「学部学科なりの視点」を発揮するには、そこで扱われている問題に対しある程度の知識・理解が必要になります。費用対効果という視点で教育について考えようとしても、効果つまり現在の教育の成果についての知識・理解がなければ論じようがないわけです。
つまり、どの学部学科を受験するにせよ、幅広い領域について高校生らしい知識・理解を得ておく必要があり、そのためには学部学科の専門性にとらわれず幅広く論説を読んでおくことが重要です。



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