帰国生入試の受験準備を行うのに最適な環境とは?vol.18 ―帰国生大学入試についてvol.87―

(2012年5月28日 17:45)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、帰国生が海外で習得した英語運用能力は個人によって大きな差があり、また帰国生入試やAO入試で出題される学問的な文章を読みこなしたり、正しい言葉遣いでエッセイを書いたりできる段階に至るまでの学習上の課題も多様であるため、個別的なサポートが必要であるということを述べました。「人数の多い環境」でこのような状況に対応することは難しく、この点でも受験準備を行う場としては適当でないと思います。


ところで、日本の中学校や高校における英語の授業や生徒の習得した運用能力の現状についての本や新聞記事を読むと、会話経験の蓄積や英語で英語を教えることを重視する授業形式に批判的なものが少なくありません。例えば、菅原克也氏の「英語と日本語のあいだ」(講談社現代新書、2011年1月)がこれに当たりますが、そこでは文法を体系的に捉えられない、もしくは発音記号を学ぶ機会がないので正しい発音を身に付けられないといった学力に直接関連する問題が指摘されているのと同時に、生徒の間で英語学習に対するモチベーションに以前より大きな差が見られるようになったということが述べられています。


菅原氏によれば、日本語と言語的特性が大きく異なる英語にアプローチし始めた段階で、2つの言語の違いを落ち着いて考察する機会を与えられず、日々の授業内容に追いつけなくなるために、学習すること自体を放棄する人がいることがその原因とのことです。もしこの分析が正しいものだとしたら、授業の内外で与えられる情報の大半が英語によるものであり、その文法や用語法に関する学習を特定の文脈から離れた形で行われることの少ない、英語圏の現地校や国際校に突然放り込まれることになった帰国生や海外生の間で、英語を学ぶ場面での積極性や能動性という点で大きな個人差が見られるようになることは想像に難くないことだと思います。


実際に授業などで生徒の様子を見ていると、与えられた教材を自分で辞書を使いながら次々にこなしていったり、授業中に理解できない事柄について質問をしたりするなど、積極的に学習を進めているという人がいる一方で、「もう2度と英語の勉強はしたくない」と言うほど、英語の学習をすることに強い抵抗感を見せる人もいます。そして、もちろん全ての帰国生や海外生がこの2つの対極的なカテゴリーに属しているという訳ではなく、多くの人は直面している課題に対する得手不得手などによって、自発的に取り組む姿勢を見せることもあれば、そうでない場合もあるという「中間的な位置」にいるものです。


また、英語を積極的に学ぼうと考えている人でも、日本の中等教育機関や予備校などで用いられているような、文法に関する専門用語が多く用いられた教材を極端に嫌い、それを用いた授業を受けているうちにモチベーションが減衰してしまうというケースも多く見られますし、反対に体系的な理解の積み重ねがないと、学習の次の段階に進むことができないというのも珍しくありません。このように、帰国生の英語の学習に対する姿勢は個人によって様々で、画一的なアプローチを考え出すのが難しいものだと思います。


学習に対して前向きな姿勢がなければ、大学入試やその後の社会生活で通用するだけの英語運用能力を習得できません。消極的な姿勢を見せる人には、その人にとって分かりやすい形で文法事項などを解説したり、得意な分野を確認した上で、学習の初期段階でそれに重点を置いた教材に当たらせることで成功体験を蓄積させたりするなどといった個別的な取り組みが必要になります。この点を考えても、「人数の多い環境」は受験準備を行う場として最適なものとは言えないということになるでしょう。


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