実情に合わない小論文指導についてvol.5 ―帰国生大学入試についてvol.17―

(2011年1月30日 15:08)


こんにちは。SOLの余語です。
前回は、「起承転結」という文章構成の型に合わせて小論文を書くと、問題に関連した状況や自分の考えとは異なるものの説明を「前ふり」として入れなければならなくなるため、読み手が十分に説得力を感じられるような形で、自分の考えやその論拠を示すことが難しくなるということを述べました。しかし、小論文を書く時に「起承転結」を用いることの問題点はこれだけではありません。今回は、「帰国生大学入試について」のvol. 15で紹介したパターンBに特有な問題を紹介したいと思います。

パターンBは、自分の考えの説明に入る前に、それと反対の考えを紹介するものです。例えば、「脳死と判定を受けた人の臓器を移植することは許されるのか」というテーマについて「許される」という立場を採る場合、「許されない」と考えている人がいることや、そのように考えている人が「脳死=人の死」としてしまうと「人の死」を一貫した形で定義することを重視していることなどの説明を、「承」に対応するものとします。

このように、自分の考えとは反対のものを紹介した場合には、それに問題があることや、自分の考えの背景にあるものの方が重要なものであることを説明する必要があります(例えば、上のテーマで言えば、そもそも従来の「人の死」の定義も一貫したものではないことや、欧米諸国ではこのようなことを詳しく議論することなく臓器移植制度を導入することを示すことになります)。それは、自分の考えとは反対のものを文章に入れてしまうことで、それが考慮に値する重要なものであり、それを含めた様々な事情の最適なバランスを取る形で、自分の考えが形成されたということを宣言してしまっているからです。

しかし、前回の記事でも述べたように、帰国生入試の小論文試験には400字から1,000字といった字数制限があります。また、自分の考えに直接的に関連するような論拠を読み手に説得力を十分に感じられる形で提示するには、それなりの字数が必要となります(これについても「帰国生大学入試について」vol. 16に例文を掲載していますので、それを参照してください)。自分の考えとは反対のものに説得力がないものであることを示すのには、自分の考えについて十分な論証を行うのと同じくらいの字数が必要となりますが、この条件の中でそれを行うのは難しいように思います。

これまでに述べてきたことを考えると、小論文を書く時に「起承転結」という型を用いるように指導するのには問題があるように思います。小論文試験の中で大学側が見たいと考えている能力があることを十分に示すことができないばかりか、文章の内容の説得力を失わせてしまう可能性があるのですから、このような文章構成で小論文を書くことは避けた方がいいでしょう。

SOLの小論文授業では、この点を踏まえて、小論文は以下のような話の流れで書くように指導しています。

【導入部】
問題提起や、文章で中心となるテーマに対する自分の考えを述べる。
  ↓
【展開部】
具体例などを交えながら、自分の考えの直接的な論拠を提示する。
  ↓
【終結部】
自分の考えを再確認する。もしくは、今後に向けての簡単な提言を行う。

小論文試験では、十分に論拠をつけた形で与えられたテーマに関する自分の考えを提示することが求められていることを考えると、このように文章の中間部を全て、自分の考えを説明することに使うことができる構成を取ることが望ましいと思います。

それでは、今回の内容に関して質問などがありましたら、以下のフォームよりご連絡ください。

【お問合せフォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/contact/


トップへ戻る